ザ・ノンフィクション MASTERPIECE
古い順に並び替えNo.34
エピソード34
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2022年春・・・多くの若者が新たな一歩を踏み出す中、周囲を驚かせる道を選んだ女子大生がいた。 名門・一橋大学を卒業した千里さん(23歳)。友人たちが大手企業に就職していく中、彼女が選んだのは「スナックのママ」になること。東京・国立市の繁華街から少し外れた場所で23年続く小さなスナックの経営を引き継ぐことを決めたのだ。 二十歳の時、初めてスナックに入り、不思議な居心地の良さからアルバイトを始めた千里さん。そのセンスを見込まれ、体力に限界を感じていた70代のママから「後を継がないか」と声を掛けられた。迷った末に「世代を超えたコミュニティーの場を作りたい」と、親の反対を押し切り、店を引き継ぐことになったのだ。 クラウドファンディングで資金を集め、店を全面リニューアル。できることは、可能な限り全て自分で。掃除に招待状作りと、開店準備に追われながらも笑顔を見せる千里さん。しかし、一人暮らしの部屋に戻ると、頭をよぎるのは不安ばかり・・・たった一人での孤独な挑戦に、誰にも弱音を吐けず涙を流す夜もあった。 それでも諦めない千里さん。「絶対にスナックのママ」になる。千里さんには、そう決めたある理由があった・・・ 先代ママの思いを引き継ぎ、新たな居場所を作ろうと一人奮闘するZ世代の新米ママの1年を追った・・・
No.33
エピソード33
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今夜も一夜限りの宿を借りながら、出会った人の人生に耳を傾ける・・・ リュック一つで全国をさすらい、夕方になると街角で「今晩泊めてください」と書かれたフリップを掲げるのは、シュラフ石田(32)。なぜか、泊めてくれる人は毎日のように現れ、夕食をごちそうになったり、過去の話を聞かせてもらったりと、一期一会の出会いを楽しんでいる。この生活を始めて4年・・・石田は泊めてくれる人を「家主さん」と呼び、これまでに300軒以上の家を泊まり歩いてきた。 「死ぬまで人の家を泊まり歩きたい」石田が今の生活にこだわる理由が垣間見えたのは、街頭でフリップを掲げることが難しい雨の日のこと。この夜、石田が訪ねたのは、1週間前に泊まった20代女性の部屋。一緒に食事をし、マンガや音楽などのたわいのない話をしながら過ごす。彼女は「孤独で乗り越えられない夜」に、石田が隣にいることで救われたという。石田もまた、自分の存在が必要とされることを心地よく感じているのだ。 そんな中、夜8時を過ぎても“家主”が見つからない石田が向かったのは80代女性の家。1人暮らしの彼女は、いつ来るとも分からない石田のために大好きなビールを冷やして待っていた・・・ 自由気ままに生きる男と、彼を受け入れる人々の一期一会では終わらない不思議な関係。このつながりの先にあるものとは・・・
No.32
エピソード32
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毎晩、見知らぬ人の家をタダで泊まり歩く男がいる。 リュック一つで全国をさすらい、夕方になると街角で「今晩泊めてください」と書かれたフリップを掲げるのは、シュラフ石田(32)。なぜか、泊めてくれる人は毎日のように現れ、夕食をごちそうになったり、お風呂を借りたり、一緒にゲームをしたりと、一期一会の出会いを楽しんでいる。この生活を始めて4年、これまでに300軒以上の家を泊まり歩いてきた。 元々、引っ込み思案なタイプだったという石田だが「何のしがらみもない一期一会の関係なら、自分らしくいられる」と、28歳で仕事を辞め、貯金を取り崩しながらこの暮らしを続けている。 石田が「家主さん」と呼ぶ人々はなぜ、その日に出会った石田を家に泊めるのか。カメラを向けているうちに見えてきたのは、それぞれが抱える“心の空白”だった。 2022年の大晦日。大阪にいた石田を泊めたのは、20代の男性。心の病を抱えながら、一人暮らしを始めたばかりだという。風呂を沸かし、年越しそばを振る舞ってくれた。石田は、男性のこれまでの苦しみや過去に耳を傾け、一緒に新年を迎える。 その一方で、大学時代の友人からは「働くべきだ」「何がしたいのか分からない」と問い詰められるのだが、石田は「今が楽しければいい」と頑なに聞き入れない・・・ 自由気ままに生きる男と、彼を受け入れる人々の不思議な一夜。今夜は、どんな出会いが待っているのか・・・
No.31
エピソード31
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かつて、幼い自分を捨てた父との再会。そして、父と息子の同居生活が始まった・・・ ゲーム芸人・フジタ、45歳独身。華麗なゲームの技の裏側には、悲し過ぎる生い立ちが深く関わっていた。小学校入学直前、母親が急死し、父と二人きりで暮らすことに。ところが父は、フジタの同級生の母親と恋仲となり、家に帰ってこなくなった。始まった孤独な暮らし。父を憎み、その寂しさを紛らすために、フジタはゲームに没頭した。 父が家を出ていって約35年。フジタは、かつて自分を捨てた父親との同居を始める。その理由は「認知症」。年金をすぐに使い切り、カードローンのキャッシングで膨らむ借金・・・しかし、何に使ったのかは記憶がないという。長年の怒りの一方で、フジタは父を許し、残り少ない親子の時間を取り戻したいと考え始めていた。 どんどん進行していく認知症。しかし、相変わらずお金に執着し続ける父に、フジタはその理由を問いかける。父が語り出したのは、貧しかった幼少期の記憶。父にとって「お金を渡すことが一番の愛情表現」であり、だからこそ、幼いフジタにも、週に1度の生活費3万円だけは欠かさずに渡し続けていたのだ。初めて知った父の思い。「自分も家族を持ちたい・・・」フジタは、45歳から婚活を始めた。 そんな中、父が突然、姿を消した・・・日付が変わっても、帰ってこない父をフジタは捜し続ける。30年以上も絶縁状態だった父と息子。家族の再生の行方は・・・
No.30
エピソード30
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小さなアパートの1室で大量のゲームソフトに囲まれて暮らす男がいる・・・ ゲーム芸人・フジタ、45歳独身。華麗なゲームの技の裏側には、悲し過ぎる生い立ちが深く関わっていた。小学校入学直前、母親が急死し、父と二人きりで暮らすことに。ところが父は、フジタの同級生の母親と恋仲になってしまい家に帰ってこなくなったのだ。小学2年生で始まった孤独な暮らし。自分をこんな目に遭わせる父を憎み、その苦しさと寂しさを紛らすために、フジタはゲームに没頭した。 父が家を出ていって約35年。憎み続けた父と相手の女性は、今も内縁関係を続けていた。長年の怒りをぶつけたいフジタだったが、父の様子がおかしい。診断の結果は「認知症」。年金もすぐに使い切り、カードローンのキャッシングで膨らむ借金・・・しかし、何に使ったのかは記憶がないという。 2023年1月。 フジタは、かつて自分を捨てた父と同居することを決めた。問題は認知症だけではない。すでに80歳を超えた父は、足腰も弱り、夜中のトイレに立つのも一苦労・・・さらに、フジタを悩ませたのは、父の異常なまでのお金への執着だった。思うように動かない体にも関わらず、「内縁の妻」にお金を渡そうと、目を離した隙にひとりで出掛けてしまう。そんな中、フジタの元に父が「救急車で運ばれた」と連絡が・・・ 30年以上も絶縁状態だった父親と息子の同居生活。フジタはそこで初めて父の思いを知ることになる・・・
No.29
エピソード29
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人生における喜びも悲しみも痛みも分け合える・・・そんな、人々の“止まり木”のような場所がある。 茨城県日立市に、まるで終戦直後にタイムスリップしたような佇まいの不思議な一角がある。14軒の小さなトタン張の飲み屋が並ぶ「塙山キャバレー」。 コロナ禍も落ち着き、賑わいを取り戻す中、この場所を支えるママたちには、様々なことが起きていた。最年少の30代ママは、塙山キャバレーでは20年ぶりの結婚。一方、最年長80代の京子ママは、がんの手術を乗り越え、退院わずか1週間で店に立っていた。そんなママを支えているのが、かつて暴走族の総長をしていた息子。塙山キャバレーで唯一の男性店長として、自分の店を切り盛りしながらママをそばで支え続ける。 そして、一見、無愛想で無口なママを目当てに客が集まるのが「酔った」。黙って客の話や歌を聴くママが、ある夜、番組スタッフに切り出したのは、思わぬ頼み事。「ある人をカメラで追ってほしいんだけど・・・」とママが願う相手は、大きな病と闘う店の常連客。取材を進めると男性客とママの意外な関係に驚くことになる。 1年前、愛するパートナーを亡くしたのは「ラブ」のママ。失意の中、寂しさを紛らわすために歌を歌うのだが「あした、死んだって構わない」と嘆く。店を辞めるかどうか思い悩むママの決断は・・・ 今夜も塙山キャバレーでは、ママと客たちが新たなドラマを紡いでいる。
No.28
エピソード28
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どんな過去を背負っていても、必ず居場所はある・・・ 茨城県日立市。チェーン店が並ぶ国道沿いに、まるで終戦直後にタイムスリップしたような不思議な一角がある。14軒の小さな飲み屋が並ぶ「塙山キャバレー」。ここで生きるママたちは、人生に疲れた客の心をそっとすくい上げてくれる。 久しぶりに訪れた塙山キャバレーでは、ママたちが相変わらずたくましく生き、コロナ禍も落ち着いて、いつもの活気を取り戻していた。最年少の30代ママがオープンした店にも、すっかり常連客が定着、他の店も開店前から客が並び、かつての塙山キャバレーに戻ったように見えた。しかし、この間に2人の大切な人が亡くなったのだという・・・ この地で火事を起こした元ラーメン店主の“のぼるちゃん”。2022年3月、自宅アパートで一人亡くなっているのを「めぐみ」ママが見つけたという。生活保護受給者のため、遺体は市が引き取り、その後の行方は分からない。「せめて葬儀や墓参りでも」と行政に掛け合うのだが・・・ そしてもう一人は、20年前に3人の子供を捨てて、この場所にたどりついた「ラブ」ママが愛したパートナー。2022年1月にこの世を去ったという。ママは笑顔で店を続けていたものの「もう辞めたい。すぐに死んでもいい」と言い出す事態に・・・「ラブ」ママは塙山キャバレーを離れてしまうのか・・・ 喜びや悲しみを抱えた人々が集う塙山キャバレーのその後を見つめた・・・
No.27
エピソード27
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どんな過去を背負っていても、必ず居場所はある・・・ 茨城県日立市。チェーン店が並ぶ国道沿いに、まるで終戦直後にタイムスリップしたような佇まいの不思議な一角がある。13軒の小さな飲み屋が並ぶ「塙山キャバレー」。 ここで生きるママたちは、自分たちのつらい経験すら武器にして、人生に疲れた客の心をそっとすくい上げてくれる。 17歳の時に母親から置き屋に売り飛ばされたという「めぐみ」のママ。「開き直らないと何もできない」と、壮絶な過去も笑い飛ばし、破格の値段で客たちをもてなす。そんなママが気にかけるのは、幼なじみの男性客・・・ 塙山キャバレーでラーメン店を営んでいたが、火事で5軒を延焼させた男。一度は自殺も考え、今は生活保護を受ける身となった男性を、めぐみママは何かと励ます。 一方、かつて別れた娘と20年ぶりの再会を果たした「ラブ」のママ。最初は和やかな二人だったが、次第に娘から厳しい言葉を投げられる。さらに息子二人もやってきて“捨てた”我が子のつらい過去を聞くことに。一度は壊れてしまった家族の修復は、やはり一筋縄ではいかなかった。 そして、塙山キャバレーで火事を起こした男は「めぐみ」の馴染み客と花見へ。桜の余韻に浸りながら、2人は今までの人生を静かに語り合った。 こんな人と人との出会いが、この街にはある。 そして、コロナ禍での苦境に耐えるママたちの元へ明るい知らせが・・・
No.26
エピソード26
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トタン張りの小さな建物が肩を寄せあうように立ち並ぶ飲み屋街。女たちが守るその場所は、人生の重荷を下ろし、心をほどく場所なのかもしれない・・・ 茨城県日立市。チェーン店が並ぶ国道沿いに、まるで終戦直後にタイムスリップしたような佇まいの不思議な一角がある。13軒の小さな飲み屋が並ぶ「塙山キャバレー」。 店を守ってきた女たちは過酷な人生を歩んできた。「めぐみ」のママは17歳の時、眠っている間に母親から芸者として身売りされたという。なんとか逃げ出し、たどり着いたのがこの街だった。 「京子」のママは夫に続き息子を亡くしたばかり。それでも笑顔で店に立つ。ここはそうした訳ありのママたちが、力を合わせて守り続ける特別な場所だ。 そんなママたちの店を「心の拠り所」に、様々な過去を抱える人々が夜な夜な塙山キャバレーに集まる。この街で自ら営んでいた店で、周囲の店も燃やしてしまう火事を起こし自殺を考えた男。突然、妻を亡くし、一人家に引きこもっていた男。コロナ禍で演奏の場を奪われたバンドマンたち・・・ママたちは、そんな客の話を黙って聞き、時に説教し、時に歌うことで、彼らの心をほぐしていく。 2020年も終わろうとしていた夜、塙山キャバレーに事件が・・・自らの過去を決して語らなかった「ラブ」のママを一人の女性が訪ねてきた。ママが20年前に生き別れた娘だった。複雑な過去を抱える母と娘の20年ぶりの再会。果たしてその行方は・・・
No.25
エピソード25
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自然の中で、お金やエネルギーに頼らない暮らしをしたい若者たち・・・ 栃木県那須町にある「非電化工房」は、自然と調和した暮らしを目指し、自分の力で生きていく技術を学ぶ場所だ。 2021年の春、ここにやってきたのは27歳の大地。幼い頃から、プロ野球選手になることを夢見て、名門高校に進学するも夢は叶わず。大学ではアメフトで日本一を目指すもレギュラーにはなれず、大手企業に就職するも1年あまりで辞めてしまった。常に「競争社会」を生き抜いてきた自分に疑問を感じ、人間関係も苦手で「本当の自分」を探すために、この地へやってきた。 同じく27歳の樹乃香は、都内の大学を卒業後、就職したものの毎朝の満員電車に心が折れてしまう。自然に囲まれた地で、カフェを経営したいという夢を持って、ここへやってきた。 常に、みんなの輪から独り離れて行動する“一匹おおかみ”の大地をメンバーの中で唯一、気に掛ける樹乃香。会話や食事を重ねるうちに、いつしか2人の間に恋心が芽生え、交際がスタートする。 ここで学ぶうちに「広大な山を自分の力で開拓する」という夢を抱くようになった大地は、「山探し」に動き出す。一方、地元に戻って「カフェ」をつくりたい樹乃香。 互いに追い求めるのは別々の夢・・・理想と現実のはざまで大きく揺れる2人。 卒業が迫る中、樹乃香の父の重い病が判明する。27歳の2人が下した決断は・・・
No.24
エピソード24
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自然の中で、お金やエネルギーに頼らない暮らしをしたい・・・ 都会に背を向けて生きることを志す若者たちが1年間の共同生活を送る。 栃木県那須町にある「非電化工房」は、自然と調和した暮らしを目指し、自分の力で生きていく技術を学ぶ場所。2021年の春、5人の若者がその門を叩いた。いずれも東京での暮らしに疑問を感じてここにやってきた20代のメンバー。 和気あいあいと作業に取り組むメンバーと離れ、独りで過ごすのは、27歳の大地。幼い頃から、プロ野球選手になることを夢見て、名門高校に進学するも夢は叶わず。大学ではアメフトで日本一を目指すもレギュラーにはなれず、大手企業に就職するも1年あまりで辞めてしまった。常に「競争社会」を生き抜いてきた自分に疑問を感じ、人間関係も苦手で「本当の自分」を探すために、この地へやってきたのだ。 そんな“一匹おおかみ”の大地をメンバーの中で唯一、気に掛けていたのが、同じく27歳の樹乃香。都内の大学を卒業後、就職したものの毎朝の満員電車に心が折れてしまう。自然に囲まれた地で、カフェを経営したいという夢を持って、ここへやってきた。 「みんなの輪に入らないの?」と大地に寄り添う樹乃香に心を許していく大地。一緒に時間を過ごすうちに、2人の間に芽生え始める恋心・・・ 都会を離れ、自然の中で生きていく「夢」を追いかける27歳の2人が、理想と現実の狭間で揺れ動いていく・・・
No.23
エピソード23
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新宿二丁目を見つめ続けて53年・・・午前0時開店の深夜食堂を営む名物夫婦に“引き際”が迫っている・・・ LGBTQが集う街・新宿二丁目で、午前9時まで営業する「クイン」は、1970年(昭和45年)のオープン以来、名物ママのりっちゃん(77歳)と厨房を担当する夫の加地さん(77歳)の夫婦二人三脚で、この街に流れついた人々の心を癒やしてきた。おにぎりと味噌汁に焼き魚・・・真夜中の優しい味で親しまれてきた店は、この街になくてはならない存在だ。 店の歴史は半世紀を過ぎ、気付けば夫婦は77歳。客が引けた店内で語り合うのは、「夫婦の今後」について。「電車に乗って二人で旅行がしたい」。そう笑う加地さんは、ある心配を抱えていた。それは、りっちゃんの体のこと。いくつかの持病を抱える妻は、足腰も弱り始め、毎日、店の階段を上がるのも一苦労。それでも「店を辞めないで」という“二丁目の住人”たちの声に応え、満身創痍の身で、今夜もビール瓶を片手に店に立ち続けていた。2024年夏に、店の賃貸契約は更新を迎える。年齢のこともあり「そのタイミングで店を辞めようか」と加地さんは考えて始めていた・・・ そんな中、店を訪れたのは、りっちゃんが「息子」と呼ぶ勇輝さん(40歳)。自暴自棄になり、すさんでいた20代の頃、りっちゃんの言葉に救われた勇輝さん。「少しでも長く店を続けてほしい」「元気になってもらいたい」と、勇輝さんはある行動に出る・・・
No.22
エピソード22
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新宿二丁目・・・LGBTQの人々が集うこの街にたどりついた者たちが、「癒やし」を求め、夜ごと訪れる深夜食堂がある。 この街で53年、営業を続けてきた「クイン」が開店するのは、日付が変わった午前0時。 飲食店をハシゴしてやってくる会社員や同性愛カップル、自身の店の営業を終えた“二丁目の住人”など、閉店する午前9時まで、客足は絶えない。多くの客の目的は、名物ママのりっちゃん(77歳)に会うこと。恋愛の悩みや人生相談など、ここでしか話せない悩みをぶつければ、返ってくるのは、優しいアドバイスや、時に厳しい叱咤激励・・・心の中にポッカリ空いた穴を埋めてくれるのだ。さらに、りっちゃんの夫である加地さん(77歳)が作る「焼き魚」や「ハンバーグ」、「おにぎり」や「500円定食」など、安くて温かな家庭料理が、お腹を満たしてくれるのだ。 この夜、訪れた葵さん(24歳)も、そんな客の1人。涙ながらにりっちゃんに打ち明けたのは、絶縁したという親との関係。家族団らんや家庭の味を知らずに育ち、「自分には帰る場所がない・・・」と語る彼女に、りっちゃんは「いつでもここに来い」と言葉を掛ける。そんな葵さんが決まって注文するのは「魚料理」。幼い頃に食べた記憶がない“家庭の味”を求めて、彼女は今夜もやってくる。 様々な人生が行き交う街の深夜食堂で繰り広げられる、ちょっと不思議で、どこか温かい人間模様を見つめた。
No.21
エピソード21
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2021年春。秋山木工に入社した2人の新人の指導役を任されたのは、2017年に京都大学を中退して入社した内藤くん(27)と同期の2人、そして2019年に入社した山田くん(20)。実はこの半年前、山田くんは、3人の先輩たちへの不満から、会社を飛び出してしまった。以来、先輩と後輩の関係は悪く、その溝は深まるばかり。社長からは、新人の指導を巡って「もっと命懸けでやれ」と叱られる毎日・・・ そんな中、若手職人日本一の技術を競う技能五輪に2017年組の佐藤くん(22)と山田くんが秋山木工の代表として、出場することに。会社の伝統と誇りを背負い、ライバルとして競い合う先輩と後輩。しかし、この2人が秋山木工を大きく揺るがす事態を引き起こすことに・・・ 厳しい修行に臨む若者たちの迷い道と別れ道。一流の職人への道を歩む令和の丁稚たちの5年間の記録。
No.20
エピソード20
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2019年春。“丁稚”となった2017年組の3人に「後輩」ができることに。「流されやすく甘えがちな自分の性格を改善し、人として成長したい」と入社してきた山田くん(18)。入社を認められ、伝統の丸刈りにすることができたことにうれし涙を流す。 同じ釜の飯を食い、共に修行を続ける4人の丁稚の間に、次第に生まれていく大きな溝・・・「言うことを聞かない」と後輩に不満を募らせる2017年組と「もっとしっかりしてくれ」と不満をぶつける山田くん。そんなある日、山田くんが突然、会社から姿を消してしまう・・・ 「このまま職人を目指すのか・・・」自身の将来を考え、悩み迷い続ける4人の丁稚たちを追った・・・
No.19
エピソード19
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入社して1年半、また一人、秋山木工を去っていく丁稚が・・・年下ながらリーダー格だった久保田くんだった。手作り家具の将来に不安を感じたのだ。 残された3人は「手作りの技」の誇りをかけて、新たな挑戦を始める。若手職人の日本一を決める技能五輪全国大会への挑戦。ただし、23歳以下という年齢制限のため、出場できるのは佐藤くんだけ。持病を抱える佐藤くんが、3人の代表として大会に挑むのだが・・・
No.18
エピソード18
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京都大学に在学中に引きこもりになった内藤くん(23)は、自分を変えるために大学を中退し、秋山木工の門を叩く。久保田くん(18)は、技と心を磨き一流の職人となるためにやって来た。初めて作る家具は、女手一つで自分を育ててくれた母親にプレゼントしたいと語る。茨城県から来た佐藤くん(17)は、糖尿病を抱えながら職人を目指す。加藤くん(22)は、京都で8代続く造園会社の後継ぎ。職人たちを率いるリーダーとなるべく、人間性を磨きにここへ来た。彼らを待ち受ける5年間の修行生活。入社初日から、社長に怒鳴られ、厳しい職人の世界を目の当たりにし、家族から送られて来た手紙に涙する・・・時にぶつかり合う、年齢も境遇も異なる同期の4人。「本当に職人になれるのか」「この世界でやっていけるのか」・・・悩んだ末に、会社を去っていく者も・・・一流の家具職人を目指し、丁稚の道を選んだ若者たちの4年間を追った。
No.16
エピソード16
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都内のアパートで暮らす26歳のみずきさん。家賃3万円台のワンルームは、足の踏み場もないほどのゴミで溢れている。食べ終わった食料品の袋やペットボトル、大量の衣類…みずきさんがゴミを捨てられなくなったきっかけは、自身の過去にあった。10代で両親が離婚。長男のみずきさんは、親の夢でもあった「研究者」を目指すため、幼い頃からの猛勉強の末に、東京大学に現役で合格。はた目には順風満帆に見えた人生だが、みずきさんは、成長と共に変化する見た目に違和感を覚えていた。だんだん“かわいくなくなっていく”自分の姿…「自分を変えたい」と、大学入学を機に手に取ったのは女性服。 しかし、突然、変貌した姿を見た周囲の人たちは、次第にみずきさんから離れていく。「人は離れていくけど、物はずっとそばにいてくれる」。以来、誰かからもらったものを手放せなくなった。たとえそれが、他人の目にはゴミとしか映らなくても… そんなみずきさんの唯一の理解者が、親友のミクさん。久しぶりに、ゴミでいっぱいのみずきさんの部屋で遊んだ二人が偶然見つけたのは、みずきさんが苦しかった時期に、同級生がくれた心遣いの差し入れ。ミクさんから背中を押され、みずきさんは、数年ぶりに連絡を試みる。 ゴミの中に埋もれる「思い出」と本当の自分。それをもう一度確かめたいと、みずきさんは部屋のゴミを片付けることを決意する。そこから出てきたモノは…
No.15
エピソード15
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いま、父の中から家族の記憶が消えようとしている… 緑に囲まれた千葉・睦沢町で暮らす高校3年生の息子、大介さん(17)は、父の介護を続ける、いわゆる「ヤングケアラー」だ。父・佳秀さん(65)は、50歳の時に、若年性アルツハイマー型認知症と診断された。それから15年、病の進行は進み、家の中を歩き回り、今では家族との会話もままならず、トイレに一人でいくこともできなくなった。いつも笑顔で、優しいスーパーマンみたいだったお父さんが… 母・京子さん(53)と大介さん、2人の妹が続けてきた介護生活は、いま“限界”を迎えようとしていた。進行していく父の認知症を前に、一家は父を介護施設に入所させるかどうかと悩み始める。 毎日、顔を合わせることで、ようやく繋がっている父の中の家族との記憶。もしも、この家を出て、介護施設に入れば、認知症が一気に進行してしまうかもしれない。コロナ禍もあって、入所すれば、半年以上、家族との面会は許されないという現実。この家を出て行けば、父の頭の中から、自分たち家族の存在は、完全に消え去ってしまうのではないか。それは、実質的に、父と家族の「お別れ」を意味する… カメラは、若年性認知症の父の介護で揺れる息子と、その一家のひと夏を見つめた。 ■ABU(アジア太平洋放送連合)賞 審査員特別賞 米・NYフェスティバル2022 ドキュメンタリー普遍的関心部門・銅賞
No.14
エピソード14
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自らを「ダメ人間」と呼ぶマエダは44歳のパチスロライター。都心の裕福な家庭の一人息子として生まれ、幼稚園からエリート街道を歩むものの、同級生の中でただ一人、大学に進学せず、ギャンブルにのめり込み、トラック運転手や豆腐店、転売業など職を転々としてきた。20歳で最初の結婚をしたが、今は「バツ2」で現在は、年老いた母と二人で暮らしている。30代半ばで、ようやく巡り会えた天職がパチスロライターの仕事。“ゲス”なキャラクターとスーツ姿で、ファンに愛されてきた。 2020年2月。そんなマエダが余命宣告を受ける。医師からは「余命は3カ月から半年」と言われた。マエダは友人たちに全てを語り、「最後まで楽しく死にたい」と、自らの“終活”に付き合ってもらうことに。 「やりたいことは我慢しない」と、酒を飲み、タバコを吸い、麻雀に興じ、旅に出るマエダだが、余命宣告から半年が過ぎ、体は悲鳴を上げ始めた。 がんの進行は止まらず入退院を繰り返す中、手術も難しい状況となり、母と2人、緩和ケア専門のホスピス探しを始める。全身の痛みと歩行困難な中、年老いた母の肩を借り、足をひきずりながら歩く。大量の痛み止めの薬を飲みながら「今、敗戦処理をしてるんだなと思うと悲しくなっちゃう」と自分の運命を嘆くマエダ。 「自分らしく生きること」「最後まで幸せに生きること」だけを願ったマエダの終活を追った1年の物語の結末は…
No.13
エピソード13
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自らを「ダメ人間」と呼ぶマエダは44歳のパチスロライター。都心の裕福な家庭の一人息子として生まれ、幼稚園からエリート街道を歩むものの、同級生の中でただ一人、大学に進学せず、ギャンブルにのめり込み、トラック運転手やパチスロ店、豆腐店、転売業など職を転々としてきた。20歳で最初の結婚をしたが今は「バツ2」で、元妻たちとの間には3人の子供がいるが会うことはない。現在は、年老いた母と二人で暮らしている。 40代になり、ようやく巡り会えた天職がパチスロライターの仕事。記事を書き、番組やDVDにも出演、“ゲス”なキャラクターとスーツ姿で、ファンに愛されてきた。 2020年2月。そんなマエダが余命宣告を受ける。過去に手術したがんが進行し、全身に転移。医師からは「余命は3カ月から半年」と言われた。マエダは友人たちに全てを語り、「最後まで楽しく死にたい」と、自らの“終活”に付き合ってもらうことに… 日々、がんの進行が進み、治療や薬の副作用で体が悲鳴を上げても、酒もタバコもやめず、仲間たちと一緒にうまいものを食べる。そんなマエダの姿に仲間たちも特別扱いすることなく、マエダの“終活”に寄り添い続ける。 そして2020年6月、余命宣告の時期に差し掛かったころ、マエダは、新型コロナに感染し入院してしまう… 「自分が死ぬまで撮影してほしい」と語るマエダの“終活”をカメラは見つめ続けた…
No.12
エピソード12
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「私が病気と闘う姿を記録してほしい」… 2020年冬、私たちが出会ったのは、料理研究家の高木ゑみさん(35)。8歳の一人息子と2人で暮らすシングルマザーだ。2020年10月、長引くコロナ禍の中でも、オンラインで料理教室を開催するなど、精力的な活動を続けていたゑみさんは、腰に強い痛みを感じる。病院に行き検査をすると、そのまま緊急入院。腰の痛みの原因は、肺から転移したがんによるものだった。突然、医師から宣告された「ステージ4」のがん。すでにがんは体のあちこちに転移していたのだ。 そんな彼女が始めたのは、病気のことを包み隠さず、世の中に伝えること。入院中の病室から、いつもと同じようにメイクをし、常に笑顔を絶やすことなく、毎日のように病状や今の心境を報告していった。気がかりなのは8歳の息子のこと。ゑみさんは「この子のためにも生きる」と、前向きに病気を乗り越えようとする姿をSNSで発信を続けていく。 去年12月、35歳の誕生日を迎えたゑみさんの病状は回復を見せ、退院できることに…彼女はすぐに、オンライン料理教室やセミナーを開始、新商品の開発に乗り出した。治療の影響で髪が抜けても、ウィッグをつけ楽しんで見せることで、“笑顔で生きる”を実践。息子との平穏な暮らしを少しずつ取り戻していった。 がんと闘いながらも、いつも明るく笑い続ける母と、そんな母が「世界で一番大好き」という一人息子の日々をカメラは見つめた…
No.11
エピソード11
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名古屋の町に、ある怒りと闘いながら日々を生きる男がいる。革ジャンがトレードマークの阪田泰志(36)。彼が全てを注ぎ込む仕事は“猫の保護活動”。自由奔放な気分屋で、普通の会社員になることは考えたこともなく、自らを“活動家”と呼ぶ“はぐれ者”だ。7年前に自身の行き場を失って始めた保護活動だが、運営するシェルターは火の車。1000万円もの借金を抱えながら多くの猫を保護し続けている。 ペットブームやコロナ禍の巣ごもり需要…猫を飼う人々が増える一方で、保護の相談が後を絶たない。その数は毎月20件以上もあるという。依頼を受け、向かった先にいたのは“捨てられた子猫”。保護すると驚くような悲惨な姿だった。一体誰がこんなことを…。動物愛護センターからも猫を引き取り、新たな飼い主が見つかるまで休みなく深夜まで世話をし続ける生活。彼は“人間の身勝手な行動”で、猫が犠牲になっていることが許せないのだ。そんな阪田の元に届いた一通の手紙。薬物所持での罪で刑務所に服役する女性が「飼い猫を預かってほしい」と頼んできたのだ。さらに、崩れかけた家族関係によって起こった“多頭飼育崩壊”。劣悪な環境でやせ細った猫たち。怒りをこらえていた阪田だが、身勝手な飼い主と真っ向から向き合っていく。小さな命を救う男と行き場を失った猫たちの向こう側に見えてきたものとは…。
No.10
エピソード10
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出会いは18年前…東京・杉並でハナ動物病院の院長を務める獣医師の太田快作さん(40)と愛犬の花子。 太田さんは、野良猫や捨て犬など飼い主のいない動物の治療を積極的に行っている。「獣医師が動物保護の先頭に立つべき」と考え、一般診療の他に、野良猫、捨て犬など飼い主のいない動物や福島で被災した犬と猫などの治療も引き受けている。 そんな太田さんにとってかけがえのない存在が花子(18)だ。人間なら100歳近い高齢で、一緒に病院に出勤し、診療中も花子を見守っている。花子は病院のアイドル犬でもあり、看護師や患者から愛されている。太田さんは獣医学部の学生の時、花子を青森の保健所から引き取った。それがきっかけとなり、人間の犠牲になる動物の命について、深く考えるようになった。獣医師になった今も「いつも花子だったら」と思い、動物たちを治療している。 そんな花子が突然倒れた。内臓に腫瘍が見つかり、余命いくばくもない。特別な治療や手術はせず、花子との時間を大切にしようと決める太田さん。花子といつも通り、病院に出勤する。末期ガンの犬や喉に腫瘍を持つ猫の手術をしながら、花子を見守る。看護師たちもそんな太田さんと花子に寄り添い、最期の時間を慈しむように過ごす。1匹の犬の看取りを通して、命との向きあい方を問いかける。 ■米・NYフェスティバル2021 ドキュメンタリー人物/伝記部門・銅賞
No.9
エピソード9
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出会いは18年前…東京・杉並でハナ動物病院の院長を務める獣医師の太田快作さん(40)と愛犬の花子。 太田さんは、野良猫や捨て犬など飼い主のいない動物の治療を積極的に行っている。「獣医師が動物保護の先頭に立つべき」と考え、一般診療の他に、野良猫、捨て犬など飼い主のいない動物や福島で被災した犬と猫などの治療も引き受けている。 そんな太田さんにとってかけがえのない存在が花子(18)だ。人間なら100歳近い高齢で、一緒に病院に出勤し、診療中も花子を見守っている。花子は病院のアイドル犬でもあり、看護師や患者から愛されている。太田さんは獣医学部の学生の時、花子を青森の保健所から引き取った。それがきっかけとなり、人間の犠牲になる動物の命について、深く考えるようになった。当時、獣医師になるためには「外科実習」という生体を使った動物実験が行われていたが、太田さんは拒否。欧米の大学で一般的な「動物実験代替法」によって、単位を取得した。かなり異例のことだった。 休みの日は、ほとんどを動物保護にあてる太田さん。千葉へ野良猫の避妊去勢手術へ出かけ、埼玉では、犬71匹の多頭飼育崩壊現場へ行き、手術を行うなど、365日24時間を動物に捧げている。 そんな時、花子が突然倒れた。高齢のため手術をすることはできない。病院での診療を続けながら、花子の介護を始める太田さん。その献身的な日々に密着した。 ■米・NYフェスティバル2021 ドキュメンタリー人物/伝記部門・銅賞
No.8
エピソード8
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星愛美、53歳。年間を通して全国のストリップ劇場を巡業しているストリッパーの中で、日本最高齢といわれる業界のレジェンド。彼女のステージは、若い踊り子が舌を巻くほどエネルギッシュで、圧倒的な迫力に満ちている。通常なら、引退同然の年齢である彼女が、なぜ、ステージに立ち続けるのか。およそ1年彼女を追うと、様々な理由が見えてきた。落ちこぼれて社会に反発していた少女はやがて、AV嬢、ストリッパー、ホステスなどの職業を繰り返すうちに、子宮がんを患い7年もの闘病生活。社会に戻ろうとしたときに、再び選んだ仕事がストリッパーだった。女性であることを意識したとき、出てきた答えだった。そんな彼女が魂を込めたステージは男性だけでなく、女性をも魅了する。ある人は、見ていると「幸せになる」と彼女の踊りを讃えた。いつしか、愛美が出演する全国のストリップ劇場を追いかけ愛美をサポートする星組なるファン組織もできた。そのメンバーの一人が、末期がんと闘っている。愛美はファンのためにステージに立ちたいとは思うものの、年齢による衰えや股関節の激痛、コロナ感染の恐怖などで限界を感じ、引退すべきか苦悩する。しかし、愛美には引退できない深いわけがあった。
No.7
エピソード7
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新宿二丁目…LGBTが集うこの街で、50年以上のもっとも長い歴史を持つショーパブ「白い部屋」。キャストが華やかなショーを繰り広げ、浮世を忘れさせる華やかな空間は、半世紀にわたり、多くの客を魅了してきた。この店を創業したのは72歳のコンチママ。この街の“生き字引”ともいえるコンチママは、18歳の時に大阪から上京し、新宿二丁目に流れ着いた。二十歳の時に始めたのが「白い部屋」だ。 今年6月、コロナによる営業休止を続けていた店は、3カ月ぶりに営業を再開した。店が休んでいる間も家賃などの固定費はかさみ、赤字は膨らむばかり。店の経営は危機を迎えていた。一方で、キャストたちは日給制のため、店が営業しなければ収入が途絶えることになる…それぞれが、コロナ禍の中で、自分の人生の歩み方を悩み、苦しんでいた。ベテランキャストのかんたさん(59)は、営業休止期間中に、臨時のバーを経店するなど「コロナには負けない」と奮闘するのだが… ようやく営業再開したものの、「夜の街」は世間から敬遠され、客足は伸び悩み、長年、店を支えてきたキャストが大量に退店を決意。週に3日しか営業ができない状態となる「白い部屋」。追い討ちをかけるように、かんたさんが新型コロナに感染し、「白い部屋」は再び、営業休止に追い込まれる… 出口の見えない危機を迎える「白い部屋」。新宿二丁目で生きる人々の「それぞれの選択」をカメラは見つめた…
No.6
エピソード6
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新宿二丁目…LGBTが集うこの街で、50年以上のもっとも長い歴史を持つショーパブ「白い部屋」。20代から70代までのキャストが華やかなショーを繰り広げる。浮世を忘れさせる華やかな空間は、半世紀にわたり、多くの客を魅了してきた。この店を創業したのは72歳のコンチママ。この街の“生き字引”ともいえるコンチママは、18歳の時に大阪から上京し、新宿二丁目に流れ着いた。二十歳の時に人に誘われて始めたのが「白い部屋」だ。 2020年、「白い部屋」とコンチママを新型コロナが襲う。2カ月半におよぶ休業。その間、店の収入は途絶え、月に100万円以上の固定費が重くのしかかる。膨らみ続ける赤字。コンチママは店の存続をかけて金策に奔走するのだが…一方で、店を支えてきたキャストたちも休業中の給料はゼロ。店と自分たちの将来について、いつ終わるとも知れない不安を抱える日々が続く… 緊急事態宣言の解除を受け、「白い部屋」は営業再開を目指すも、コンチママとキャストたちの間には、心のすれ違いが生まれていた。長年、店を支えて来たベテランキャストたちが、店を離れることを決意したのだ… コロナ禍の中、新宿二丁目で生きる人々の苦悩をカメラは追った。
No.5
エピソード5
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かつて罪を犯し、刑務所や少年院から出てきた人物の身元を引き受け、仕事と住居を提供し「親代わり」になっている男がいる。出所しても、2人に1人は再犯してしまうという現在、「お金」と「寝る場所」がないから犯罪に走る…という現実がある。「仕事」と「住む家」があれば、人は罪を犯さないとその男は信じ、再犯防止活動に精力的に取り組んでいる。 大阪で会社の社長を務める、草刈健太郎(47歳)。採用面接を行なうために訪れた全国の刑務所・少年院は50カ所を超える。もちろん仕事と住む家を与えたからといって、全員が更生できるわけではない。裏切られても決してあきらめず、元犯罪者の支援に取り組むのには深い理由が… 15年前、最愛の妹を留学先のロサンゼルスで殺されたのだ。犯人はアメリカ人の夫。犯罪被害者の遺族となった草刈がなぜ、元受刑者の更生に懸命になるのか。その理由を草刈はこう語る…『加害者を減らせば、妹のような被害者も少なくなる。この取り組みは妹にやれと言われている気がする』誰よりも犯罪を憎む男が選んだ険しい道程を見つめた… ■米・NYフェスティバル2022 ドキュメンタリー社会問題部門・銅賞
No.4
エピソード4
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いつもジャイアンツの帽子をかぶっているその男…小堀敏夫 52歳、独身。 貯金はゼロ、家賃2万8千円のアパートに住み、ガスは止められ、スーパーで割引になったとんかつ弁当と一緒にカップヌードルを食べる暮らし。 そんなどうしようもない小堀には、30年近くも続けている“仕事”がある… それが「お笑い芸人」だ。ワハハ本舗に所属し「ガッポリ建設」というコンビを組んでいる。 主宰の喰始(たべ・はじめ)からは「クズ芸人」と呼ばれている。 芸人として何一つ努力もせず、毎日パチスロばかり。「仕事」と称して出かけるのは、昨今世間で話題になった芸人による「ギャラ飲み」たとえクズ芸人と呼ばれようが、小堀にとっては「お笑い芸人」でありつづけることが大切なのだ。 小堀の所属するワハハ本舗では、仕事のない芸人を救済するために3カ月に一度、お笑いライブが開かれている。みんなの前で芸を披露し、主宰の喰にアイディアをもらいながら、本番に向けて芸を練り上げていく。 小堀も参加するが、やる気は全くない。喰のダメ出しには、いつも言い訳ばかり。そんなクズ芸人・小堀を見続ける喰は「自分は人間を嫌いになれない」「クビは切れない」と言い、長年、見逃してきたのだが…
